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第十話 二回目のイロナ・魔術師と会う

مؤلف: 紡里
last update تاريخ النشر: 2026-07-31 14:35:49

翌日は学園が休日だったため、部屋で考え事をすることにした。

どうやら、毒殺されて時を遡ったのは、夢ではなく現実らしい……。

考えを整理するため、ノートを取り出す。

・一か月後にカタリンに毒殺される。トルタケーキを食べる前だから、毒はカーヒーコーヒーの中?

・カタリンはどうやって毒を手に入れた?

・殺害動機はマールトンの子を妊娠し、一刻も早く彼と結婚する必要があったから。

・マールトンはどこまで知っていたか。妊娠は? 毒殺は?

・誰が時を戻す魔導具を使ったのか?

最初に浮かんだのは、マールトンだった。

わたくしが死ねば、婚約解消で揉めることもなく、カタリンと結婚できただろう。彼にとっては望み通りの結末なのだから、時を戻そうとする理由はない気がする。

では、彼の父親であるヘーデルヴァーリ伯爵?

いいえ。我がセーケイ家との繋がりを重視するなら、もっと早い段階でマールトンを叱っていたはずだ。

もしかして、結婚後にカタリンがおかしなことをしたのかしら?

……わからない。

頬杖をついてノートを眺めていても、答えは出ない。

自分の死後のことなど、わかるはずもないのだから――

思わずため息を吐いた、そのときだった。

「お客様がお越しです」

侍女に声をかけられ、わたくしは顔を上げた。

「あら。先触れはあったのかしら?」

「ございません。突然のご訪問でございます」

まさかマールトンかと思ったが、どうやら違うらしい。

訪ねてきたのは、魔術師だという。

我がセーケイ家は魔導具の廉価版を製作している。そのため、オリジナルの魔導具を生み出す魔術師は、何より大切な存在だ。

良い関係を築き、できれば我が家のパートナーになってもらいたい。

わたくしはノートをしまうと、応接室へ急いだ。

そこにいたのは、ぼさぼさの長い髪に、清潔とは言いがたい服をまとった男だった。

身なりに頓着しない魔術師は珍しくない。前髪に隠れて目元は見えず、どこか胡散臭い雰囲気を漂わせている。

だが、実力ある魔術師かもしれない。丁寧に応対するべきだ。

「初めまして。魔術師のガーボル・ヴェレシュです」

「お目にかかれて光栄ですわ。イロナ・セーケイと申します」

ガーボルが差し出した手を取り、握手を交わした。

手の甲に口づけを受けるのではなく握手というのが新鮮だ。

パーラーメイドがガーボルの前にカーヒーを運び、わたくしにはハーブティーを用意してくれる。

あれ以来、カーヒーを口にする気にはなれなかった。前回、死ぬ直前に飲んだものだから、どうしても恐怖がよみがえるのだ。

「今日は、どのようなご用件でしょう?」

わたくしが話を促すと、ガーボルはカチャリとソーサーにカップを戻した。

「もちろん、魔導具の売り込みです」

ローテーブルの上に、さまざまな魔導具が並べられる。どれも今ひとつ魅力を感じない品ばかりだ。

目が肥えている侍女も、品々を見て苦笑している。

ふいにガーボルが身をかがめ、手招きをした。

わたくしも中腰になり耳を寄せる。

魔導具の説明が始まるのかと思ったら、彼は小声で囁いた。

「マールトン・ヘーデルヴァーリから、イロナ・セーケイを生き返らせる依頼を受けた。成功したと考えていいかな?」

わたくしは目を見開き、ガーボルを凝視した。

――今、なんと言った?

この魔術師が、時を巻き戻したの?

「……そうね。そう考えていいと思うわ」

必死に平静を装う。声は震えていなかっただろうか。

この人は、誰の味方なのだろう。

わたくしにとって敵でなければいいのだけれど……。

わたくしが侍女へ合図を送ると、彼女は小さくうなずき、壁際まで下がって耳栓をした。廊下には、いざという時に備えて力仕事をする使用人が控えているはずだ。

魔術師は秘密主義者が多い。そのため魔導具の取引の場では、守秘義務と警備の手順が徹底されている。

「あなたが、やったのね?」

「はい」

「どうして?」

「嬉しくなかったですか?」

思いもよらない問いだった。

「怖いわ。前のわたくしが気付かなかった悪意を知ってしまったの。もう、何かを口にするのさえ怖くなって……」

言葉を紡ぐうちに、涙が次から次へとあふれてくる。

「あ、あ……泣かないで」

ガーボルはすっかり狼狽えていた。こんな奇妙な体験をさせられたら、怯えるのは当然だろう。

ポケットを探っているところを見ると、ハンカチでも探しているのだろうか。

わたくしは自分のハンカチを取り出し、そっと目元に当てた。

「り、理由を……説明、して」

しばらく涙は止まりそうになかった。けれど、このまま泣いていても時間を無駄にするばかりだ。

目の端に、侍女が苛立ったような表情を浮かべているのが見える。耳栓を外す合図をわたくしが出さないため、駆け寄りたい気持ちを堪えているのだろう。

ガーボルは「理由は追々……」と濁しながら、マールトンがわたくしと結婚するつもりだと教えてくれた。

とっさに嫌だと思った。

わたくしは、二人の浮気に怒りを感じているらしい。

わたくしを仲間はずれにして、二人だけで楽しそうにしていたことも。

「婚約者だから」とわたくしの厚意に甘えているくせに、マールトンは婚約者としての背金を果たそうとしなかったことも。

次に魔術師と会うまでに、考えておいてと言われたことがある。

毒殺を回避するだけでいいのか。

彼らを許すのか。

それとも、罪を償わせるのか。

魔術師はいくつかの魔導具と、一冊の本を置いていった。

「君のような女性が、自分を取り戻すために必要なことが書いてあるよ」と。

   ***

その本の題名は、『支配する愛に囚われた女性たち』。

読み始めたときは、正直、よくわからなかった。

けれどページをめくるたびに、少しずつ理解できてくる。

これは、わたくしのことだ。

マールトンがいつも冷たいのに、ときどき優しかったのは……愛情ではなかったのだ。

ただ、わたくしを支配するためだった。

我慢できなくなる寸前で優しくして、繋ぎ止めておく手法――

わたくしの従順な性格に付け込まれていた。

自信を失わせ、彼なしでは何も決められないように導かれていた。

わたくしは自分の気持ちを押し殺し、違和感から目を背けていた。

――そこに、愛はなかった。

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